納豆・味噌・漬物を毎日の食卓に――「排便は食生活の通知表」と語る理由
俳優として数々の映画やドラマに出演する一方、映画監督、プロデューサー、アーティストとしても活動の幅を広げている斎藤工(さいとう たくみ)さん。近年は映画業界への支援活動に加え、発酵食品を中心とした独自の「腸活」に取り組んでいることでも注目されています。
斎藤さんの食生活は、華やかな芸能界のイメージとは対照的です。日常的に食べているのは、鯖缶、納豆、豆腐、アカモクなどの海藻、りんごといった身近な食品。さらに、自分で仕込んだ味噌や発酵飲料も取り入れているといいます。
その根底にあるのは、単なる健康法ではなく、「自分の体の状態を観察し、食生活を通じて整える」という考え方です。斎藤さんは自身の体験から、「排便は食生活の通知表」と表現しています。
パンデミックをきっかけに食生活を見直す
斎藤さんが発酵食品や腸内環境に関心を持つようになった大きなきっかけは、2020年のパンデミックでした。
当時、映画やドラマの撮影が約3カ月間空いたことで、自身の健康との向き合い方について考える時間が生まれたといいます。多くの人と接する仕事である以上、ウイルスとの接触を完全に避けるのは難しい。それならば、まずは日頃から体調を崩しにくい生活を目指そうと考え、食事や微生物、腸内環境に関する本を読み始めました。
そうして試行錯誤を重ねた末にたどり着いたのが、味噌、納豆、漬物など、日本で古くから食べられてきた発酵食品でした。
斎藤さんは、味噌汁、ご飯、漬物といった伝統的な食事を続けることで、自分の体や便の状態に変化を感じたと語っています。発酵食品が特別な健康食品ではなく、日本人の身近な食文化の中に存在していることにも魅力を感じたようです。
日本には味噌、しょうゆ、納豆、酢、みりん、ぬか漬け、甘酒など、多様な発酵食品があります。農林水産省も、日本は調味料を含めて発酵食品が身近にある「発酵大国」であり、毎日の食事に取り入れやすい食品として味噌汁や納豆などを紹介しています。農林水産省「元気の源は『発酵』にアリ!」
鯖缶、納豆、豆腐、アカモク――毎日ほぼ同じ食事
斎藤さんの日常の食事は、かなりシンプルです。
鯖缶と納豆、豆腐、アカモクを和えたものに、りんごを添えるという内容で、撮影現場でもそれを一人で淡々と食べているといいます。自分で作った味噌や発酵飲料を取り入れることもあり、基本的には発酵食品を中心とした一日一食の生活を続けています。
食事の内容をある程度固定することは、何を食べたときに自分の体がどう変化するのかを把握しやすくする面があります。斎藤さんにとって食事は、単に空腹を満たすものではなく、自分の体を観察するための継続的な実験でもあるのでしょう。
ただし、毎日同じような食事を続けたり、一日一食に制限したりする方法が、すべての人に適しているわけではありません。必要なエネルギー量や栄養素は、年齢、性別、活動量、持病などによって異なります。
厚生労働省と農林水産省の「食事バランスガイド」では、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物という複数の料理区分から、必要な量をバランスよく摂ることが示されています。斎藤さんの方法をそのまままねるのではなく、発酵食品を普段の食事へ無理なく加えるという考え方から取り入れるのが現実的です。
「排便は食生活の通知表」――体の変化を見逃さない
斎藤さんが腸活を続ける中で、特に重視するようになったのが排便の状態です。
普段は発酵食品を中心とした食事を続けながら、週に1回ほどは、それ以外の好きなものを食べる日を設けているといいます。すると、その翌日には体の匂いや便の状態が明らかに違うと感じることがあるそうです。
こうした経験から生まれたのが、「排便は食生活の通知表」という言葉です。
便の回数や形、色、硬さ、匂いなどは、食事や水分摂取、運動、睡眠、ストレス、服薬など、さまざまな要因の影響を受けます。そのため、便だけで腸内環境のすべてを判断することはできません。しかし、いつもの状態を知り、変化に気づくことは、自分の体調を見直すきっかけになります。
一方で、血便や黒い便、強い腹痛、便秘や下痢が長く続く場合には、食生活だけの問題と決めつけず、医療機関へ相談することが重要です。
たどり着いたのは「昔ながらの発酵食品」
数多くの食品や健康法を試した斎藤さんが、最終的に高く評価しているのは、納豆、漬物、味噌といった昔ながらの食品です。
近年は、腸活をうたうサプリメントや加工食品も数多く販売されています。しかし斎藤さんは、特別なものを新たに探すより、日本人が長年食べてきた身近な食品を見直すことに価値を感じています。
発酵食品には、発酵の過程で生まれるさまざまな成分が含まれます。ただし、「発酵食品なら何をどれだけ食べても健康になる」というわけではありません。漬物や味噌、しょうゆなどは塩分量にも注意が必要です。
また、腸内細菌の構成は人によって異なるため、同じ食品を食べても実感には個人差があります。特定の食品だけに頼るのではなく、野菜、果物、海藻、豆類、きのこ類なども組み合わせ、食事全体のバランスを考えることが大切です。
斎藤さんが食べている納豆や豆腐は大豆由来のたんぱく質を、アカモクは食物繊維を、鯖はたんぱく質や脂質を摂れる食品です。発酵食品単体ではなく、複数の食品を組み合わせている点も注目されます。
朝一番の歯磨きも「腸を意識する習慣」に
斎藤さんは、元サッカー日本代表選手で、現在は腸内細菌に関するヘルスケア事業に取り組む鈴木啓太さんに、「もし一つだけ腸に良いことをするとしたら何ですか」と尋ねたことがあるそうです。
その際に返ってきた答えが、「朝起きたら、まず歯を磨くこと」でした。
睡眠中は唾液の分泌量が減少し、口の中では細菌が増えやすくなります。そのため、起床後に口腔内を清潔にすることは、口の健康を守る基本的な生活習慣です。
もっとも、朝一番の歯磨きが直接的に腸内環境を改善するという効果については、個人の体験談や専門家の見解と、医学的に確立された効果を分けて考える必要があります。それでも、大がかりな食生活の変更が難しい人にとって、毎朝の歯磨きから健康意識を高めるという提案は、取り組みやすい第一歩といえそうです。
腸と心、創造性の関係にも関心
斎藤さんの腸活は、体調管理だけにとどまりません。腸内環境を整えることが、感情や思考、さらには創造性にも関係するのではないかと考えています。
腸と脳が神経、ホルモン、免疫などを介して相互に影響し合う「腸脳相関」は、現在も研究が進められている分野です。ただし、特定の発酵食品を食べれば創造性が高まる、あるいは性格が穏やかになるといった単純な因果関係が証明されているわけではありません。
それでも、食生活を整えたことで体調が安定し、集中しやすくなったり、気持ちに余裕が生まれたりする可能性はあります。斎藤さんが感じている思考の変化も、自身の体調を丁寧に観察し続けた結果として捉えることができます。
日本語には「腹が立つ」「腹落ちする」「腹を決める」「腹を割って話す」など、腹と感情や意思を結びつける表現が数多くあります。斎藤さんは、こうした言葉にも、昔の人々が腹や腸の重要性を感覚的に理解していた痕跡を見いだしています。
撮影現場にも広がる斎藤工流の健康づくり
斎藤さんの関心は、自分一人の健康管理から、撮影現場で働く人たちの体調にも広がっています。
ある作品の撮影では、オリジナルの腹巻きを作り、出演者やスタッフに配ったといいます。長時間に及ぶ撮影や寒い場所でのロケなど、映画やドラマの現場では生活リズムが不規則になりやすく、食事の時間や内容も安定しないことがあります。
斎藤さんは、将来的に撮影現場のロケ弁も自ら考えたいと構想しています。地方で撮影する際には、地元の農家と連携し、その土地で作られた野菜や発酵食品を使った弁当を提供するというアイデアです。
作品が世界へ配信される機会が増えた今、映像作品だけでなく、日本の撮影現場のあり方や地域の食文化まで発信したいという思いがあります。腸活を個人的な健康法で終わらせず、地域農業や映画産業の持続可能性へつなげようとする視点は、監督やプロデューサーとしても活動する斎藤さんらしい発想です。
「発酵」は斎藤工にとって生き方のモデル
斎藤さんにとって発酵は、食生活のキーワードであると同時に、理想とする生き方の比喩でもあります。
発酵は、微生物の働きによって時間をかけながら食品を変化させ、新しい風味や価値を生み出します。一方で、環境や管理状態によっては、意図しない腐敗につながることもあります。
斎藤さんは、自分自身が良い方向へ変化し続けるためには、本人の努力だけでなく、自分が関わる人や周囲の環境にも目を向けなければならないと考えています。
また、発酵には時間が必要です。年齢を重ねることが否定的に語られる場合もありますが、斎藤さんは、時間を重ねることで生まれる深みや価値に注目します。俳優、監督、プロデューサーとして経験を蓄積していく姿と、ゆっくり変化する発酵を重ね合わせているのです。
「赤ちゃんのような匂い」は腸活の証明なのか
発酵食中心の生活を始めて数カ月後、斎藤さんは共演したリリー・フランキーさんから「赤ちゃんみたいな匂いがする」と言われたことがあるそうです。
斎藤さんにとっては、自分の食生活や体の状態が変わったことを印象づける出来事だったのでしょう。ただし、体臭が赤ちゃんに似ていることをもって、腸内環境が「最強になった」「赤ちゃんと同じ状態に戻った」と医学的に判断することはできません。
体臭は食事だけでなく、汗、皮脂、皮膚の常在菌、年齢、体質、生活環境などにも左右されます。このエピソードは、あくまで本人と共演者が感じた興味深い変化として受け止めるのが適切です。
同様に、「人の体の9割が微生物でできている」という表現も、微生物の重要性を伝える比喩としては印象的ですが、文字どおり人体の9割が微生物という意味ではありません。人間の体には膨大な数の微生物が共生しているものの、近年の推計では、人体を構成する細胞数と細菌数はおおむね同程度と考えられています。
大切なのは、無理な模倣ではなく「体の声を聞くこと」
斎藤工さんの腸活から学べる最大のポイントは、鯖缶や納豆を毎日食べることでも、一日一食をまねることでもありません。
自分が何を食べ、その後に体調、便、睡眠、気分がどのように変化したのかを継続的に観察することです。その上で、味噌汁や納豆などの身近な食品を、無理のない範囲で食卓へ取り入れていくことが、一般の人にも実践しやすい方法です。
まずは具だくさんの味噌汁を一品加える、納豆を普段の食事に取り入れる、野菜や海藻を意識して食べるなど、小さな変化から始めるのがよいでしょう。食事全体のバランスを保ち、睡眠、運動、口腔ケアも含めて生活を整えることが、長く続けられる健康習慣につながります。
発酵には時間が必要です。健康づくりもまた、短期間で劇的な変化を求めるのではなく、自分に合う方法を探しながら積み重ねるものです。
斎藤さんが発酵食を通じて見つめ直したのは、腸だけではありません。自分の体、時間の重ね方、周囲の人との関係、そして働く環境そのものです。斎藤工さんの腸活は、食事法の枠を超えた、一つの生活哲学になりつつあります。
◎美研 編集部

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